消防団哀歌(書き下ろし・2003年4月9日)

キミは「消防団」という組織を知っているか?
「火事があったら119番のアレでしょ?」と思ったアナタ、それは消防署。
まあ火事があったら駆けつけるのはたしかだけど、消防署とはちょっと違うのだ。
わかりやすく言えば、自治体や消防署の下に位置し、地元で火事があったら出動して初期消火や消防署の補佐等を行う、まあ地元のボランティア団体みたいな位置づけの存在です。TVニュースなんかで遭難者とか行方不明者の捜索の映像で、昔の火消しが着るよーな黒地に赤帯の入ったはっぴを着たオジサンたちが警察や消防署の人たちに混じって写っていることがありますが、彼らがそうです。かの阪神・淡路大震災の時も活躍し、地元の人たちで組織された消防団の存在意義はとても大きかったと聞きます。
・・・なんて、かく言うアタクシも入団するまでその存在を知ることはなかったのですが・・・。
そんな、災害等があった時(あるいは酔っぱらった消防団員が消防車を運転して事故を起こしたとか、自分でよそン家に火ィつけて自分で消してたなんていうバカタレが捕まってニュースに出るとか)以外は、その存在をあまり知られない消防団でありますが、何かあった時は地元で役に立てるように、平均して月1回以上の訓練を、本業の仕事を終えて疲れた体にムチ打って実施しておるのですよ。ハイ。

・・・あれは200X年、まだ水がキンと冷たい2月、晴れた土曜日の朝でした。年に4回実施せねばならない機械器具点検(消防車のポンプやホースの点検。機械操作・放水訓練も兼ねる)を行うべく、我々10人の消防団員は小川が流れるいつもの場所へ向かいました。その日は晴れていたけどちょっと肌寒くて、放水訓練にはちょっと気が進まないお天気でした。ソレでもやらねばなりません。せっかくみんなの休みを合わせて来たんだし。

放水訓練をする小川には平行して散歩道がありまして、その日も犬を連れたオバサンや、近くの公園に向かう親子連れが歩いていました。その近所で訓練を行うわけですが、消防車を使って放水の図は一般人にとっては珍しいらしく、立ち止まってちょっと見ていったりする方もいます。地元ですから時には知ってる人が声をかけてくれることもあります。ボランティア精神で成り立つ消防団員としての自尊心がチトくすぐられるヒトトキではあります。

・・・しかしこの日は、そんなボランティア精神を踏みにじる人に出会ってしまったのです。
それは我々の活動を、存在意義を、理解しようともしない人でした。
・・・あー、今思い出してもハラ立つなー。あのクソジジイ!

放水訓練は場所の制約上、その散歩道を一部横断するように、またいで行うことになるのですが、成り行きとして、その歩行者の通行を時々停めて(長くて1分以内)行う場合があり、歩道も濡れます。で、急ぐ方にはほんの5mほど回り道をしてもらえば通行できるように配慮しています。
私が入団して10年近く、我が分団としてはそれ以前からその場所で放水訓練をしていますが、応援をされこそすれ、モンクを言われたことは一度もありませんでした・・・あの日までは。

その歩道を、健康のためだかヒマつぶしなんだか知りませんが、スウェットを着て、両耳にイヤホンつけて歩いていた70過ぎと思われるジーサマが、放水している我々の前でふと立ち止まって、いきなり怒りに満ちた大声でまくしたてました。
「・・・みみ、みんなが歩く歩道でナニやってんだ!ふざけんな!」

ジーサマに水がかかった様子もないし、他の人にも同様です。最初は意味が解りませんでした。よーするに我々がジャマだったということなのでしょうか。そんなコトを言ってるみたいです。
その時アタクシはその歩道から少し離れた場所に立っていたので静観していまして、歩行者に水がかからないように気を付けるべく監視していた分団長が、そのまま去ろうとするジジイに歩きながら説明をしたのですが、ジジイは納得しない様子。で、ウチの分団長も気色ばんできているのが遠目にも解ったので、アタクシ慌てて声をかけて分団長を呼び戻し、訓練を再開しました。ジジイも去りましたが、遠ざかりつつ時々振り返っては怒りの眼差しをコッチに向けてました。やれやれ。

で、訓練も終わってホース等の後片付けをしているその時、あのクソジジイは再びコチラへやってきたのでした。
今度はホースを片づけている若手を捕まえてモンクをたれている。じじいイーカゲンにしなさいよ、であります。そんなキモチを抑えつつ今度はアタクシが説明をする番でした。訓練を義務づけられ、許可をもらった上で場所を使って年に4回だけ行っていると、それは丁寧に説明してるのに、さっきの繰り返しで相手はまるで聞く耳を持たず、しまいには「水を撒くなら畑でやれ!」「役所に電話するぞ!」なんて言い出す始末。
・・・これは我々だけでなく畑を守って耕している人にも侮辱だ。フザケてんのはドッチだよ。いい加減にアタクシもアタマに来たんで、すかさずそのクソジジイ目がけて放水し「訓練するなっつーんなら、アンタの家が火事になっても俺たちゃ出動しねーぞ!」と言い放つ自分を心の中で想像しつつ、グッとこらえたえちご屋でした…。(弱ぁー)

住民の安全に微力でも貢献している消防団だと思っていましたし、寒い中での放水だって、いざと言う時に皆さんの安全を守るための訓練であるからこそ、仕事も忙しいのに面倒だなあと思いながらも一同励んでいるのに、あんなコト言われちゃヤッてらんねーよ、であります。
確かに迷惑をかけているのかもしれないが、我々だって好きでやってるワケじゃない。
火事や災害が絶対に無いと言う保証があるのなら、我々だって訓練なんかしたくないよ。

ま、そんなことはあり得ないし、理解してくれる地元の住民がいるから訓練しますけどね。
・・・それにしてもクソジジイ。恐らく地元出身ではないのでしょう。あーゆー手合いがこれからは増えていくのだろうか。とても心配であります。
平和ボケしている日本人という言い方があるけど、そんなコトバも脳裏をかすめたものです。しかも若いヤツならいざ知らず、ジーサマがそんな事を言うんだから呆れる他はない。こんな日本に誰がした。

消防団は全国にあって、みんな地元の防災活動のために黙々と頑張っておるのです。
アナタも参加してくれとは言わないが、せめて存在だけは認めて頂きたい、あんなクソジジイみたいな人のいない地元であって欲しい・・・と、切に願いつつ、筆を置くえちご屋でした。


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